芳養王子~田辺市内の熊野古道

田辺の街は中辺路と大辺路の別れ道で、熊野詣の参詣者で賑わいました。 芳養王子からは、名勝天神崎を回ったり、街中の城下町の名残を残す狭い通りも探訪してみてください。熊野古道に関係する旧跡だけでなく、「南方熊楠顕彰館」や「かまぼこ通り」もおすすめです。 市街地の北新町に、それぞれへの分岐点を示す道標があります。

熊野古道沿いの見どころ

芳養王子~田辺の街中へ

芳養王子(はやおうじ)

藤原宗忠が天仁2年(1109)10月に参詣したと日記「中右記」に記すなど、多くの文献に名が残る王子です。
現在芳養王子跡は、大神社となっています。
<和歌山県指定史跡>

出立王子(でだちおうじ)

熊野詣においてこの地での塩垢離(潮垢離)は特に重要視されたと伝えられており、建仁元年(1201)の御幸記では後鳥羽院に同行した藤原定家が不覚にも風邪をひき、出立での潮垢離を辞退したところ厳しく叱責され、やむなく潮浴びをしたと伝えられています。王子社はもと元町西郷の御所谷付近にあったといわれていますが、現在はこの位置に移されています。
<和歌山県指定史跡>

道分け石(みちわけいし)

中辺路・大辺路への分岐点となる、街なかの商店街「北新町」にある道標。
かつては、現在の本町・栄町付近(ここより会津川寄り)が中心地でした。紀伊路を下ってきた参詣者が町を通り、ここで「左 くまの道」に従い万呂・三栖方面(中辺路)へ進みます。下には小さい字で「すくハ 大へち」とあり、直進すれば礫山・新庄方面(大辺路)へ続くことを示しています。逆に万呂方面からやって来ると「右 きみゐ寺」に従い紀三井寺(和歌山市方面)へと進むことになります。

芳養王子~田辺市内のモデルコース

中辺路ルートへ

北新町の道分け石を左に進み、栖の口踏切を越え直進。旧国道42号線を渡りさらに直進します。つきあたりに万呂道標があり、「右 くまの道」の表示に従って右に進み、国道42号(田辺バイパス)を横断して万呂王子・三栖王子に向かい、岡の峠を越えて上富田町の八上王子・稲葉根王子に向かいます。

秋津王子(あきづおうじ)

藤原定家の熊野御幸記に秋津王子の名が初めて登場していますが、幾度かの水害で移転をくりかえし、もとの場所は確定できません。現在は豊秋津神社に合祀されています。
(写真は安井宮跡の石碑)

万呂王子(まろおうじ)

藤原定家の御幸記に秋津王子に参ったあと、「山を超えて丸王子にまいり」とありますが、現在、その山はまったく確認できません。明治10年頃、須佐神社に合祀され、その後は田畑になってしまいました。熊野橋から50mほど北の梅畑の畔に標柱が建っています。

三栖王子(みすおうじ)

藤原定家の熊野道之間愚記に「ミス山王子」と書かれていたのが始まりで、江戸時代には側を流れる谷川に王子社が映って見えたことから影見王子とも呼ばれていました。
社殿は水害で崩壊し、現在は潮見峠への途中にある珠簾神社に合祀されていますが、田園地帯の見晴らしが良い高台に「三栖王子跡」の碑が残ります。
三栖王子からは、現在の上富田町岡へ越して八上王子・稲葉根王子へと続きます。
室町時代にはここから上三栖を経て潮見峠を越える街道(潮見峠越)が開かれたといわれています。

>「八上王子~滝尻王子」へ続く

大辺路ルートへ

道分け石の表示に従い直進すれば大辺路へ。蟻通神社の前で小路に入り、若宮神社の前からつぶり坂、新庄の旧道を過ぎて新庄峠を越え、上富田町朝来(あっそ)に向かいます。朝来からは富田川を渡り、田園地帯を大辺路富田坂に至ります。

蟻通神社(ありとおしじんじゃ)

商店街沿いにある神社。境内には楠の大木があり、江戸末期の大火災の時、枝々から白水を吹いて延焼を防いだという伝説があります。

鬪雞神社(とうけいじんじゃ)

2016年、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に追加登録されました。
創建は5世紀に遡ると伝わります。白河法皇の時代に熊野三所権現を勧請し、「権現さん」とも呼ばれます。熊野三山の別宮的存在で、熊野参詣の折には鬪雞神社に参拝して心願成就を祈願したといいます。また、この神社に祈願して、三山参詣に替えたという伝承もあります。
熊野別当湛増が源平合戦の出陣にのぞみ、源平いずれに味方するかで紅白の鶏を戦わせた故事にちなみ、現在では鬪雞神社と呼ばれています。
毎年7月24日・25日に行われる鬪雞神社の例祭「田辺祭」は、450年余の歴史があり、町をあげての賑わいとなります。

大潟神社(おおがたじんじゃ)

新庄地区に建つ神社。明治時代に村社となり、大潟神社と改称しました。元は若一王子社と呼ばれ山麓の熊野古道大辺路に面して鎮座していましたが、昭和16年頃遷座し現在に至ります。 ここから新庄峠を越えて田辺の街を離れ、上富田町朝来(あっそ)、大辺路富田坂に向かいます。

>「富田坂」へ続く